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デジタル作品の「価値」を最大化する秘密。上田バロン氏に学ぶ、グラフィックアートと額装の革新的な関係

  • tenkuunomori
  • 7月18日
  • 読了時間: 9分

更新日:4 日前

公開日:2025年7月18日

上田バロン氏インタビュー 


額装家 多喜博子(以下、多)が、アーティスト上田バロン氏(以下、上)に、額装を通じて感じた魅力や、アートについての思いをお聞かせいただきました。






多喜博子が額装した上田バロン作の作品と上田バロン氏

―プロフィール

上田 バロン  アーティスト/イラストレーター/ AI BEARクリエイター


京都に生まれ西陣織職人の祖父を持つ。ボールドでエッジィな線を巧みに使いこなして描くキャラクターイラストレーションは見る者の記憶に残る。アート、キャラクターデザインなどを軸に企業やメディア、コンテンツなどさまざまな媒体で展開している。国内だけでなく海外のプロジェクトも数々手がけ、Google・McDonald's・Nike・Red Bull・WWD・Marvel ・Yogibo・布袋寅泰・パフューム・川谷絵音・砂田将宏(BALLISTIK BOYZ)などともコラボしてきており、唯一無二のスタイルで自身のブランドを確立。

デジタル表現と最先端の印刷技術も取り入れ、伝統と革新に挑戦し続けており、日本庭園の茶室に黄金の掛軸などを制作プロデュースの他、藤次寺の大仏殿の黄金の扉絵をはじめ、日本の伝統である金箔や和紙などを取り入れ作品制作を続けている。

発売から10年を超える代表作に幻冬舎の「人狼ゲーム」のカードビジュアルを手がけており、芸能界からYouTuberをはじめ大人から子供まで幅広いユーザーに親しまれている。ルーカスフィルム公認STAR WARSアンソロジーコミックで「Phantasmagoria」を執筆。 上田バロン作品に数多く描きつづけている、子ぐまロボット「AI BEAR」は人の側に寄り添うアートプロダクトとして展開している。


・Red Bull Ignition 2015招待アーティスト

・K-Design Award 2017受賞(PABLO黄金舞妓画)

・LIMITSデジタルアートバトル2017世界大会 3位

・玄光社刊 上田バロン作品集「EYES」

・Yogibo Presents上田バロン20周年記念EXHIBITION「EYES ON THE FUTURE & PAST」

・日経STEAMアドバイザー就任 ・BiG-i x Bunkamura アートプロジェクト審査員就任 ・開創1200年 藤次寺 大仏殿扉絵奉納(本金箔風神雷神図)

・BSテレビ東京「池上彰のSTEAM教育改革」出演


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多 バロンさんの作品は、大きな屏風や金箔を貼ったパネル、壁画に描かれたりと、あまり額縁を使われてない印象なのですが、それは今までやったことがないもの、スケールの大きなものを作りたいという理由からなのでしょうか?


上 自分のイラストに合う額縁って昔からしっくりくる物が無くて、プリントした絵は平面だからできるだけ厚みがある額縁を使いたかった。当時は欲しい厚めの額を選んでもシンプルな黒とか白とか無かったので、だから無地の額縁を買ってきて黒に塗ったりしていたよ。自分の作品は絵画というよりグラフィックの延長線上のものとしてやっていたので、作品に合う額縁がなくて自分で作っていました。


表具師さんと作品を作っているのは、自分のアイデンティティとして日本人であること、自身のルーツが京都だということと、デジタル表現をやってきたことがクロスオーバーしていることに気づいたこともあって。それから、デジタルではメタリック色が唯一出せないんですが、10年以上前に金箔を使ったことをきっかけに箔の美しさに気がつきました。その時に和紙と箔を使うことが、生ものという価値を感じて。デジタル表現はそれまでやりつくしてきたけれど、昔から日本にあったものに目を向けて、自分の絵の中に本物を取り込んでリッチな作品が作れたらいいなと思って定期的に伝統工芸を取り入れるチャレンジをしています。


過去に一度デジタルで作ったものを全て手作業で作った作品があるんだけど、そこまで手間暇かけてアナログでやった時に見えたものがあって、それ以来デジタルと素材をどう融合させていこうか、その先に理想の作品ができあがるんじゃないかと考えて制作するようになってきました。デジタルプリントもプリントメーカーと一緒に追求しているし、最終的には表具師という伝統的な職業があるのでそこで僕の作品をあらためてアナログに戻して、日本人にしか作れない作品を伝統と革新をテーマとして描いています。

ただ単に懐古主義的なものではなく、もともと日本にあるものの良さと奥深さを知って使っていきたいという気持ちです。今ちょうど富山のために作品を作っていて和紙からこだわっていて、できるだけ伝統産業にいる伝統職人たちとその技術を取り込んだ作品ができたらいいなと今作品づくりを進めています。


多 そうなんですよね。まだ額縁店のラインナップはファインアート向けのものが多くてグラフィックアートに合うものが少ないです。今のアートシーンはグラフィックアートの価値も上がってきているから、私も額縁メーカーに対してグラフィックアートの印刷物の価値を上げるような額縁を作って欲しいなと思っていますし、そう働きかけるのですがなかなか難しいです。


上 もしかすると新しい時代の感覚を持っているひとたちも額縁会社の組織に居るのだろうけど、そのひとたちの声が届かないとかまだ認めてもらえてないとかあるかもしれないね。ただ、額縁業界以外の会社と新しい額を作るのも良いかも。多喜さんが作っていた初音ミクの額縁みたいに、額縁とは全然違う製造業の会社と作ってたよね。


多 そうなんです。別の業界の会社さんと一緒にいろいろ新しいものを作っていっているところです。私はいろんな素材を組み合わせたりするのが好きなので、それぞれの素材加工会社さんその強みを生かして新しい額縁の開発につなげようと考えながら動いています。


上 そういうアイデアを額縁製作にディレクションしていくことが必要になってくるよね。



額装家多喜博子が額装した上田バロン作品正面

多 バロンさんとご縁をいただのは特大カレンダーのプロジェクトでした。バロンさんとはその前に知り合っていて、一度作品を額装させてもらいたいですと伝えていたら、ちょうどそのプロジェクトとタイミングが合って起用してくださいました。


上 そうそう。せっかく多喜さんに作ってもらうのならひとつだけ作って終わりじゃなくて、クラウドファンディングのプロジェクトだったし、作品をただシートで見せるよりも額装して見栄えよくできたら良いんじゃないかなと僕が勝手に思って。


多 プロジェクトで額装を使うという方法があるのかと初めて知ったんです。企業とお仕事をしてこられたバロンさんだからこその発想ですよね。さすがビジネスセンスも持っていらっしゃるなと感心して勉強にもなりました。


上 多喜さんにも負担が無いように、それにお金になったほうが良い額を作ってくれるんじゃないかなと笑。自分の作品でやっているプロジェクトで普段とは違う額装ができると面白いんじゃないかなと思ったし。


多 はい、おかげさまです。あれから企業さんとも額装の仕事をいただけるようにもなりました。振り返って、あの額装はいかがでしたか?


上 額装の制作途中に報告してもらいながら見ていたし、僕のリクエストも叶えてくれたよね。普段自分が額に口出しをすることはほとんどないのだけど、古事記から大国主とネズミ作品の額は多喜さんに託した部分がありました。佇まいとしてもっと世界感を感じてもらえるようなパッケージ感覚というか、特注の額があることでより特別な作品に見えるというのは良かった。漆塗りの額縁に飾金具を探して付けてくれたり、絵の中の世界感を理解してくれたから普段額縁に使わない材料を使ってくれたり、僕のリクエストで炎の柄を入れてくれたり隅っこまで世界感をだしてくれて、他にはない作品にしてくれて嬉しかった。展覧会ではなかなかできないことだし、やって良かったなと思っています。。



額装家多喜博子が額装した上田バロン氏作品斜めから見た画像

多 イラストレーターさんまたはアーティストさんと額装作家との関係性についてどのように思われますか?


上 僕が作品のコンセプトと希望と伝えて、そこから膨らんでくるものを額装作家さんが具現化してくれるという、額装のプロとの対話から生まれる僕の引き出しにないものを期待しています。僕の作品をどういう風に見てくれているのかなと頼っているところがありますね。できればアーティスト側の思惑や見えている物を完成作品で超えていきたいと思っているので、そういうチャレンジを世の中のひとに見てもらいたいなと思っています。



額装家多喜博子が額装した上田バロン氏作品「Rising Sun」

多 今後私に対して期待することがあれば教えてください。


上 作品を自分と違った目でみる額装家多喜さんから見て、この新たな作品をどう見てくれるのかを次回も期待したいですね。僕は絵を描く側だから、額側から見た作品というか、この作品をどう演出してくれるのかを期待したいよね。今のところ適当なプロジェクトは無いけれど、デジタル作品のポップなところとかセンシティブなところとかを、額装で引き出してもらえる機会があればぜひコラボレーションしたいなと思っています。


多 バロンさんのアートへのこだわりについて以前うかがったことがあったのですが、同じことを続けること、でしたよね?


上 絵の流行廃りはあって当たり前なのだけど、ひとつのことをやり続けることがアイデンティティになっていると思う。例え僕の絵の特徴でもある眼の描き方を真似されたとしても、僕は20年前から描いていた事実は消えないしこれからも同じ眼を描いていくだろう、そういう覚悟もあるよね。真似したひとはどこかで新たな流行を追いかけるだろうけど、僕はずっとやり続ける。それだけ長く続けることができるかどうかは、ニーズや自分のモチベーションにも関わってくるのだけど、現在においても自分の絵を信じていて創作意欲があるのは本当に自分の内から湧き出てることなので嘘がないよね。自分に嘘をつくとどこかで破綻するので、自分が信じていることと行動が一致している気持ちよさは、心がクリアだし。迷いがないしストレスが少ないから、結果的に長く継続できると思う。


たくさんの苦労をしてきたけど僕はこの仕事を見つけられて良かったなと思います。若い頃は、流行に乗った方が仕事になるよとかアドバイスしてくれるひとは周りにいっぱいいて、ちょっと試してみたけど結局しっくりこなかった。このスタイルで絵を描き続けてこられたのは、それなりの苦労があるから。僕の絵は流行とは思っていないし、流行とは違う領域があっても良いんじゃないかと思ってます。

自分の居場所が自分で作れる心の持ちよう、メンタリティは直接作品には見えないところだけど大事だと思いますね。





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