山口志のぶ『White deer』の額装記録|アンティークレースで仕立てた、霧の森のドレス
- 2025年10月31日
- 読了時間: 5分
更新日:2月27日
最終更新日:2026年2月24日
「目立ってはいけない」という、長年の問い

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タイトル:White deer
作家:イラストレーター 山口志のぶ氏
額装年:2021年
額装素材:木・紙・レース
額装サイズ:480x380㎜
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額装の世界には、暗黙のルールがあります。主役はあくまでも作品で、額縁はそれを邪魔しない「黒衣(くろご)」でなければならない、と。
頭ではわかっていますが、ずっと心のどこかに引っかかりがありました。
オートクチュールのドレスを思い浮かべてください。たった一人のために選ばれた生地、計算された縫い目、作り手の意志が宿った一着。それ自体を眺めているだけで、息を呑むほど美しい。そして、ドレスをまとったひとの魅力を引き出し自信を与えてくれる。
「綺麗に見せるだけじゃない。作品と額装が呼応して、一緒に息をするようなものをつくりたい」——その問いに向き合うきっかけをくれたのが、山口志のぶさんの『White deer』でした。
ミステリーの影を描く、山口志のぶという人


山口志のぶさんは、湊かなえさんの『カケラ』や、村山由佳さんの連載作品『ロマンチック・ポルノグラフィー』など、数多くのベストセラーの装画・挿絵を手がけてきたイラストレーター。
彼女が描く女性には独特の「色気」と「影」を感じます。以前私がご本人にそう話すと、「だからミステリー小説の仕事が多いのかな」と笑っておられました。
今回は、そんな山口さんが「画家」として初めて個展に挑む特別な機会でした。阪急百貨店での展示を前に、「私の絵の中から好きなものを選んで、多喜さんの好きなように額装してください」とご連絡をいただいたのです。
数ある作品の中から、私が迷わず選んだのは、鹿の角を持つ女の子の絵でした。お洒落で可愛いだけじゃない、どこか野生的な空気を纏ったその子を見ていたら、頭の中で物語が動き始めました。


「霧の森の結婚式」

額装を考えるとき、私はまず客観的に額装の目的を整理し、そして主観的に作品を味わいます。主観的に見る時は、「この作品の空気はどんな匂いや音がするだろう」と没入していく感覚です。
『White deer』から聴こえてきたのは、静寂に包まれた森の音でした。
霧がかかる朝。深い森の奥で、静かに結婚式が始まろうとしている。鹿の角を持つ女の子は白いドレスを纏い、頭にブーケを飾っている。肌は透き通るように白く、唇と頬だけがひんやりとした空気の中でほんのりと色づいている。花婿の姿は、まだ霧の向こうで見えない……。
この子のために、世界でたった一着のドレスを仕立てよう。そう決まった瞬間、「白い既製品の額縁」という選択肢は頭から消えていました。
アンティークレースを選んだ理由

私が手に取ったのは、柔らかさと透け感のある「アンティークレース」でした。均一な既製品では出せない、手仕事のぬくもりと複雑な陰影がこの物語の空気を表現できると感じました。
麻布の野生的な質感と、繊細なレース。真逆のふたつをどう調和させるか。
レースはテープ状になっているので、どう配置して使えば霧が漂うような軽やかさと且つウエディングドレスの可憐さが表現できるのかと、配置を何度も組みなおして眺めることを繰り返します。
「主張しすぎではないか」と頭をよぎりますが、このドレスは、この子のために仕立てたものだ。纏うことで、作品の奥にある何かが、もっと鮮明に立ち上がるように作ろうと手を進めていきます。
阪急百貨店での個展にて


仕上がった額装は、繊細で不思議な存在感を持つものになりました。
完成した姿を前に、完成した額装を見た山口さんは、
「かわいい!」と、まっすぐ言ってくださり、その一言が一番嬉しく、細かな作業が報われた気がしました。

額装は、もっと自由でいい
「額装は、もっと自由でいい。もっと熱量を持っていい。」
この作品との時間が、改めて私の額装に自信を与えてくれました。これからも私は、ご依頼者の「大切なもの」の声に耳を傾け、絵であれ、思い出の品であれ、そこに宿る物語を丁寧に掬い上げて、世界でたった一着のドレスを仕立てるように形にしていきます。

タイトル:White deer
作家:イラストレーター 山口志のぶ氏
額装年:2021年
額装素材:木・紙・レース
額装サイズ:480x380㎜
山口志のぶ『White deer』の額装記録|アンティークレースで仕立てた、霧の森のドレス
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