【額装事例】B3ポスターを「唯一無二のオブジェ」へ。山中智郎氏『月とうさぎ』に見る、現代アートと額装の化学反応額装|額装家多喜博子
- tenkuunomori
- 12月4日
- 読了時間: 6分
更新日:4 日前
最終更新日:2025年12月4日
【オーダーメイド額装事例】

■額装事例データ
作品:「月とうさぎ」山中智朗氏作 B3ポスター Sプリズムプリント
額装年:2022年
額縁サイズ:約650×550㎜
一枚のポスターが、額装によってその価値を劇的に変える瞬間があります。
単に飾るための額ではなく、作品の一部として作品そのものを拡張する装置として機能したとき、印刷物という枠を超えコレクターが熱望する「アートオブジェ」へと昇華します。
今回は、アーティスト 山中智郎氏の作品『月とうさぎ』の額装事例をご紹介します。 (有) サンクラールの高度な箔押し印刷技術Sプリズムプリントが施されたこの作品を、いかにしてアートフェアで注目を集める高付加価値な作品へと仕上げたか。 その思考と技術の裏側、そして”フランス額装”だからこそ実現できた表現について、詳しく書き記したいと思います。

【依頼内容】B3ポスターを「コレクターズアイテム」として格上げする額装

今回のオーダーは非常に明確かつ挑戦的なものでした。
「このB3ポスターを、多くのアートコレクターや愛好家に注目してもらえる作品にしたい」
通常、ポスターやプリント作品は、原画に比べて安価に流通することが多いものです。しかし、山中氏の描く世界観と今回の「Sプリズムプリント」という特殊技術には、単なる印刷物の域には収まらない相乗効果がもたらす付加価値がありました。
求められているのは、既製品のフレームに入れることではなく、作品の格を上げ実物を見た瞬間に「これは手元に置いておきたい」と感覚を揺さぶるような額装デザインが必要でした。

【デザイン構想】「ジャータカ物語」を解釈し、奥行きを生む「交差額装」

額装のプランニングは、まず作品を「読む」ことから始まります。
描かれているのは、仏教説話「ジャータカ物語」の一幕。 帝釈天(老人)のために、自らの身を火に投じて捧げたウサギの、切なく美しい自己犠牲の物語です。山中氏はこの神話を、現代的な感覚と伝統的な美意識を融合させて描いています。
私はこの物語から、「静」と「動」、そして「神聖さ」をキーワードに抽出しました。
平面の絵画の中に込められたウサギの決意と躍動を、どうやって額縁という物質的な枠組みで表現するか。そこで導き出したのが、オリジナルのデザイン交差額装です。
フレームのラインが立体的に交差しています。 これは、絵の中で月へ向かって跳ねるウサギの動きや、物語の展開とリンクするようにと考え採用しました。フレーム自体に物理的な奥行きを持たせることで、平面作品であるポスターに空間を与え、見る人の視線を奥へ奥へと誘引します。
【技術・素材】フランス額装の手法——紙が生み出す「陶器のような質感」と耐久性

今回、この複雑な造形を実現するために選んだ素材は「紙」です。
これは私が得意とする伝統的な技術であるフランス額装の手法の一つですが、厚紙を重ね立体的に成形することで繊細で有機的なフォルムを生み出すことができます。
「紙」と聞くと強度を心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、適切な加工と仕上げを施したフランス額装のフレームは、非常に堅牢です。 そして何より、私がこの素材を愛してやまない理由は、テクスチャーと軽さにあります。
特殊な加工が施されており、まるで陶器のようなしっとりとした質感を持っています。 指先で触れたくなるような滑らかさと、光を柔らかく受け止める品のある光沢。それでいて、持ってみると驚くほど軽い。 この「陶器のような重厚感」と「扱いやすい軽さ」のギャップもまた、持ち主の方々に喜ばれるポイントの一つです。
【ディテール】Sプリズムプリントと呼応するネオンカラーの演出

山中氏の作品の大きな魅力である表現の新しさ—— 神仏をヒーローのように現代的に描く。 これを額装でどう表現するか。
その答えとして、内側の窓(マットの開口部)の小口(こぐち)部分に、特殊な素材を使用しました。
一見するとただの色のラインに見えますが、見る角度によって色味が変化するネオンカラー素材を仕込んでいます。 これが、サンクラール様のSプリズムプリントの「変化する輝き」と呼応し、作品全体に未来的な浮遊感を与えています。
伝統的な神話(ジャータカ)と、現代のテクノロジー(プリズムプリント)。 この対比を額装でも再現すべく、陶器のようなクラシックな質感のフレームの中にネオンの光沢という異素材を組み合わせました。
【展開】物語を対比させる2つの世界観「雪白色」と「蓮色」
この物語を表現するために、私は2つの異なるアプローチを用意しました。
【雪白色(せっぱくしょく)】


天上の神聖さと権威をイメージした純白の世界。内側の青色のオーロラのが、冷たく美しい月の世界を感じさせます。
【蓮色(はすいろ)】


物語に込められた「慈愛」をイメージした、淡いピンクとパールの世界。どちらの色にも四隅には白銀の伝統的な飾り金具をあしらい、神話の重厚さと華やかさを演出しました。
【実績】招待制展示会にて40万円で売約——「印刷業界」も注目した価値の証明
こうして完成した額装作品は、ある招待制のアートエキシビションにてお披露目されました。
結果として、ポスター(印刷作品)としては異例の評価を受け、40万円という高額な価格設定であったにもかかわらず複数点の売約をいただくことができました。 この反響は印刷業界からも大きな注目を集めることとなりました。
これは、「額装」が単なる脇役ではなく、作品の価値を証明し、高めるための重要なファクターであることを実証した事例と言えるでしょう。
「飾り方」で価値は変わる——コレクションを唯一無二のアートピースへ

額装家 多喜博子は、単に作品を保護するだけでなく、その作品が持つストーリー、アーティストの意図、そして所有する方の想いを汲み取り、形にする額装を心がけています。
今回の山中智郎氏の『月とうさぎ』の実績が証明するように、プリント作品であっても額装のアプローチ次第で、世界に一つだけの「資産価値あるアートピース」へと生まれ変わらせることが可能です。
「手元にある大切な作品を、どう飾ればいいかわからない」
「もっと作品の魅力を引き出して、特別な空間を作りたい」
そのようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
フランス額装の技術と多喜博子ならではの感性で、あなたの作品に新たな命を吹き込むお手伝いをさせていただきます。

【アーティスト情報】 山中智郎(Tomoro Yamanaka
【ポスター印刷】有限会社サンクラール(Sプリズムプリント)
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