【制作事例】デジタルアートの特殊額装 - イラストレーターGODTAIL氏の箔押しポスターをサイバー空間のように魅せる技(額装家多喜博子)
- SATSUKI DESIGN OFFICE

- 2月15日
- 読了時間: 7分
更新日:10月25日
【オーダーメイド額装事例】
最終更新日:2025年9月1日
― デジタルアートに特別な額縁で新たな価値を付加するフレームデザインの思考・制作プロセスを解説します ―
デジタルアートへの挑戦:GODTAIL氏の箔押しポスターを額装する経緯

GODTAIL(ゴッドテイル)氏といえば、イラストレーターとして20年以上にわたり業界の第一線で活躍され、現在MARVELの公式アーティストとしても国内外で活発に制作活動をしていらっしゃる方です。そんなかたが、自身のアート作品をひっさげてアートフェア「Unknown Asia 2022」に初出展されることになりました。
出展にあたって選ばれた作品のひとつは、「Nendo」というタイトルの一点。
GODTAIL氏がクライアントワーク(顧客からの依頼を受けてその要望に応じる仕事)ではなく、あるイベントのために自発的に描いた渾身の一作で、かなり描きこまれた繊細で濃密なビジュアルです。
額装のためにお預かりしたのは、デジタル上で描いたこの作品をSプリズムプリントという特殊な箔押し印刷を施したB3サイズのポスターでした。

「作品を、直接ファンに届けたい。そしていつまでも大切にしてもらいたい。」
長くデジタルアートに携わってきた今だからこそ湧き上がってきたこの想いと、いつまでも新しいことにチャレンジしていたいという気持ちから、GODTAIL氏はキャリア20年にして初めてアートフェアに参加することを決めたそうです。
この箔押しポスターをプロデュースした印刷会社・サンクラール社を通じて、額装家・多喜博子へご依頼くださったのですが、実は以前から、多喜が手がけたイラストレーター上田バロン氏の作品額装を目にしていて、気になっていたということでした。
【フレームデザインの思考】サイバー空間を額装で表現するアイデアとコンセプト

GODTAIL氏とは、Zoomで初めて挨拶を交わしました。
印象的だったのは、「Nendo」という作品に込められたストーリー。
「未来の子どもたちが、サイバー空間の中で自由に遊んでいる。そんな光景を“粘土遊び”のような感覚で描きました。」
タイトルの“Nendo”は、そこに由来しています。
さらに、「絵の中の床は、実は(大友克洋の漫画)AKIRAのこども部屋の模様が元なんです」と教えてくださいました。
同世代の私ももちろんAKIRAは大好きで、打ち合わせ後に改めてAKIRAを何度も観返すことに。他にもマトリックスをはじめ、さまざまなサイバー系アニメや映画も見直し、アニメ・ゲームの中心地である大阪日本橋にも足を運びました。
“未来”や“サイバー空間”を、物質的なフレームにどう落とし込めるのか?
額装という「面」でもあり「構造」を持つもので、あの空気感を再現できるのか?
その問いを胸に、しばらくは考えつづける日々が続きます。
特殊素材と構造の試行錯誤:デジタルアートに命を吹き込むプロセス

提案は2案用意しました。ひとつは、iPhoneのようなデバイス感を意識したもの。そしてもうひとつが、サイバー空間そのものを抽象的に表現した案です。
結果、後者のサイバー案が採用されたのは、黒を基調としそこにサイバー空間を表現したグリッドをネオンカラーの光線で走らせたデザイン。
この時、光線の表現に使う素材を探し始め、いくつかリストアップしていたものの、実際に使用するのは初めての素材ばかり。
頭の中では完成形のイメージができていたので、あとは手と素材で形にするだけ。素材の組み合わせ方、立体感の出し方、同じ黒色でもテクスチャーの違いでどう質感の見え方が変わるか——細部にわたって緻密に試作と検討を重ねていきます。
後日、GODTAIL氏に「2案目を見たときに、かなり良いものになると確信していました」と言われ、うれしい気持ちと責任感の両方が強まりました。
【ハードウエア化】最後の直感が生んだ、ポスターをアート作品にする決定的なパーツ

試作を重ね、本制作が9割ほど完成したのは納期の2日前。
ネオンカラーの光線を実現させる素材と、その光線を立体的に見せる構造で、額装でサイバー空間を作り上げることができました。が、しかし
「できた!」と思ったものの、何かが足りない——。何が足りないのか.....寝ている間も考えていた感覚があります。
そのとき、「パーツを追加したい」という直感が降りてきました。
なぜ、パーツが必要に感じるのか。
サイバー空間の中心はあくまでこのポスターの中にある絵「Nendo」の世界なのです。だから、この額縁は”サイバー空間の入口”であり、いわばハードウエアになるのではないか?と考え、
”もっとハードウエア感を追加する必要がある”、と感じたわけです。

直ぐにパーツがありそうなお店に出かけたり、知り合いの彫金師に相談をしたり、ネットで探したけれど、理想のパーツは市販品では見つからず。
使えそうな素材を使って自分で切断・塗装することに。グラインダーで2サイズのパーツを切断し、やすりで磨いて、塗装。時間はないけど焦らず急げ。

次は、パーツの配置を決めていきます。
左右に置いたり、上下に置いたり、距離をちょっとずつ変えてみたり。
撮影して、俯瞰で見て、を20回くらい繰り返しました。



結果、上下に3つ並べるとバランスが安定しカッコイイ配置を発見。奇跡的に模様のサイズにもぴったりと重なるベストな位置になっていました。
達成感と安堵が一気に押し寄せたのと、自分でも惚れ惚れして額を何度も眺めていたのを覚えています。
お渡しできたのは、アートフェア搬入の前夜でした。

額装による価値向上:B3ポスターが100万円で販売されたアートフェアでの反響

アートフェア当日、GODTAIL氏のブースの展示は迫力があり、ひときわ目を引くものでした。
「Nendo」はブース中央に展示され、来場者からは、
「どうやって光らせてるの?」「電気が入ってるの?」「絵と額が完璧に合っている!」
と、次々と驚きと興味の声があがっていたそうです。

Xでは多数リツイート。さらにこの作品は、その後開催されたGODTAIL氏の個展でも展示・販売され、箔押し印刷+額装という形でB3サイズがなんと100万円で購入されていました。しかも複数の購入希望者が現れたとのこと。
額装が、作品と作家の価値を最大限に伝えている——そんな手応えを感じる出来事でした。

まとめ:額装家が現代アートにもたらす「新たな価値」

今回の額装では、あらためて”額装を含めた全体がひとつの作品”として見られていることを実感しました。オリジナルの額縁と、出力されたデジタルアートの組み合わせが生む相乗効果は、自分にとっても新鮮な発見でした。
アニメやゲームなど、日本発のエンタメカルチャーが持つ視覚の強度や世界観の広がり。その中で、額装が果たせる役割は、これまで以上に大きく、まだまだ拓けていけると感じています。
絵と空間、作家とコレクター、その間にある構造媒体としてのフレーム。
そこにどんな役割を持たせられるか。
額装の役割は、そのシーンや人、場所によってさまざまです。
特別な作品には、また特別な額装の役割があるはず。その答えを一緒に探すのが額装家の役割です。

作家:イラストレーター GODTAIL氏
額装年:2022年
額装素材:木・紙・アルミ・アクリル
額装サイズ:700x600㎜
あらゆるメディアで活躍中のイラストレーターGODTAIL氏の作品「Nendo」はサイバー空間で遊ぶ子供達がテーマ。それに合わせて、額装もサイバー感の出るデザインで装飾しました。
有限会社サンクラール社の特殊箔押し印刷でプリントされたキラキラ光る箇所と額装の発光が絵に奥行を出しています。多種の素材を使用し加工をして、質感にこだわりました。
箔押し印刷や特殊な出力物への額装も、作品の特性に合わせてデザインします。
デジタルアートに命を吹き込み、空間に響かせる特別な額装をご希望のアート愛好家のみなさま。また、斬新な額装デザインをお探しのクリエイター様からのご相談も歓迎いたします。